【6-7月】読んだ小説メモ

小説を集めるのが好きで子供の頃からちまちま買っていたが、家族から「読まないものは処分してくれ」と苦言を呈され続けていたので何年か前からちょこちょこ蔵書を売り捌いている。まあそれは若干の嘘があり、捌くというほどの数はない。処分する際に一冊一冊手に取ってみて気づいたが、ちゃんと内容を覚えている小説めちゃくちゃ少ねえ。内容も感想もはっきり浮かぶ本だけ残して残りは泣く泣く二束三文で売ったが、覚えてないものを手元に残して覚えてるものは売るべきなんじゃないか本来は。覚えてない本の内容を参照できないと困るし。と思ったけど、「あれあの小説のあのシーンどうなったっけ?」と見る気がしないので、じゃあ他の方の手に渡った方が絶対に良いだろうと思い返して結局売った。

そんなわけで、売ってもお金にならない、内容も覚えてない等のキョムキョム感からここ数年はそれほど小説を読んでいなかったのだが、積読消化をしていたら小説を読むのにハマってしまい、また古本屋で異常に買い漁るようになってしまった。しかしどうせ忘れるのに読みっぱなしもなんだかもったいないなという気がしたので、この2ヶ月くらいで読んだ本の感想をちょろっと書く。

以下作品のネタバレを含みます。

 

【『ヴォイド・シェイパ』シリーズ/森博嗣

恐らく日本が舞台の剣豪小説。主人公がハーレムみたいになるけど自覚がなくてもっとモテるやつ(そういう話ではないけど)。中学生くらいのときに、シリーズ第一作目の『ヴォイド・シェイパ』を読んでいたく感動したのだけれど、読み返したら全然覚えてなくてぶったまげた。たぶん、ストーリーが好きなんじゃなくて主人公が思索にふける感じが好きだったんだと思う。「他のことの方が向いていたかもしれないと思っても、結局今やってることを続けているのは才能があるからなんじゃないのか」的な記述、好き。雑な引用で申し訳ない。強くなりたい!という気持ちが全面的に押し出されてはいないけど、結局強くなるために剣を振るってしまうみたいな熱さが好き。ラストでこっそり女性に会いに行くのが、ラブストーリーでは全然ないと感じたけど爽やかな幕引きで良かった。森博嗣氏の描く快活な女性がめちゃくちゃ魅力的なので大好き。

 

【『スカイ・クロラ』シリーズ/森博嗣

単行本の装丁がきれいで買ったやつ。時系列的には後ろにくる『スカイ・クロラ』が刊行順は最初なのは罠だが、完結してから読めたのでそこは良かった。たぶんスカイ・クロラから読んでたら大混乱してた。

フラッタ・リンツ・ライフの語り手誰かわからん問題があり、スカイ・イクリプスを読むまでひたすらモヤモヤしていたんだが、最終的には水素とフーコのハッピーエンドで良かったね!と解釈している。スカイクロラは水素の自我がめちゃくちゃになってしまったときの視点で描かれているストーリーってことでいいんだろうか、という謎などいろいろわからんところはあるけど。話も面白いけどこれも「空では1人になれる」みたいなとこから滲み出る、あんまり人に干渉されたくないぜ的な心理を延々読み続けられたのが良かったかも。

 

【神様が殺してくれる/森博嗣

連続殺人事件の犯人を突き止めるっていうちゃんとしたミステリーだった。ミステリーほぼ読まんけど私にしては珍しく考えながら読んだかも。一人称視点で書かれるので、そこを突いたトリックかと思ったけど違いました。作者にやられたー、と思ったけどやられたと思ったときの方がなんか楽しいかもしれん。でも犯人考えながら小説の世界に浸るのは、脳のキャパ的な観点から私には難しいのでたぶんまたしばらくミステリーは読まない。

 

【水柿助教授シリーズ/森博嗣

森博嗣氏のシリーズで1番好きかもしれない。毒にも薬にもならないように見える文章をするする読むの、気持ち良すぎる。自身の日常を綴ったエッセイに見えるけど、エッセイと呼ぶには小説っぽすぎる。この人なんでこんな読みやすくてクスッと笑える文章を書けるんだろう。推敲に推敲を重ねているのかもしれないけれど、書くスピードがとんでもなくて15時間大学で働いた後の家での時間のほとんどを執筆に費やし、2ヶ月くらいで一冊(?)書けるようなのでとんでもないです。マジで何してんだ自分はってちょっと反省した後悲しくなるやつ。良いテンポで挟まれる言葉遊びが1番の推しポイントなので、言葉遊び界隈の方には自信を持っておすすめしたい。あとやっぱり奥さんが魅力的。森氏の快活な女性は奥さんを元にして書いてんじゃないかと思ってしまう。

 

【『響け!ユーフォニアム』シリーズ/武田綾乃

やっぱなんだかんだ青春モノ好きだなあ〜と思いながら一気に読んだやつ。アニメと違って小説の久美子の方が冷静というか、冷めた感じが強調されるのは気のせいだろうか。立華高校シリーズ、語り手が梓だから彼女の歪みに読者が気づきづらいって構成が個人的には結構好きだった。努力をすることが好きって人間、怖え〜けど目標に向けてひたすら行動し続けられるのは怠惰の権化の自分からしたら普通に羨ましい。周囲をあんまり見れてない感はあるけど、上手くいってるなら別にそれでもいいんじゃない、ということをどうしても思ってしまうし、一芸に秀でるからこそちょっと周囲から浮くキャラってやっぱり好きになってしまう。

 

ナラタージュ/島本理生

結局主人公ともう1人の主要キャラが好きあってたじゃん!お互い諦めて違う人と一緒にいるのに!ああでももうどうしようもない!な終わり方好きすぎだろ自分。あらゆる小説がこの終わり方したらどんな好きじゃない内容だったとしてもたぶん拍手喝采する。この終わり方する話を「ララランド式」とかで括って誰か教えてほしい。全部ネタバレしたけどそういう話でした。途中でレイプに遭って自ら命を絶つ女の子の話がなんで挟まってたかはよくわからない。悲しすぎる。

 

不機嫌な果実/林真理子

なんやかんやで林真理子氏の作品読むの初めてだった。やってることは不倫なので最悪だけど、時代柄もあってか何のイライラもなく読めて途中で笑えちゃうの本当に作家ってすごいなと思う。他人事だから笑えるのか。でもここまで「夫の職業は、容姿は」という他人からの評価とか、恋愛とかだけを考えて行動している主人公を見ていると、素直で良いなあと思ってしまう。自分の心の中を素直に語ってるように見えるからかなあ。もし「私の夫の年収は〜」的な話を人にしようとしたら、人に語る用の言葉になるしな。だからSNSの自慢風文章にイラついてしまうのか!(何の話だろ)

 

限りなく透明に近いブルー/村上龍

退廃的な生活、って一言で言われたときに持つイメージと、実際の描写に乖離がありすぎるのは私だけなのか?セックス!ドラッグ!みたいな描写が淡々と続くのに、妙にリアルなので胸焼けしてしまった。血液検査で血を抜かれるのがもうだめな私にとっては、注射で薬入れられるシーンなんか肉と血のブヨブヨした感じが無駄にリアルに迫ってきてしまい完全にダメだった。蛾をつぶして羽をもいで口に入れたときのざらっとした感じの描写とか。やったことないけど。本編で美しいと思うのが、タイトルの描写するときだけなんだけど、それ故に透明に近いブルーの空が輝く。

多分この作品が刊行された時代というのも重要で、描かれているような世の中の暗い部分がフィクションでないことがSNSの普及でわかってしまったから、今の時代に読むとこの小説のフィクションっぽさが強調されてしまうのかもしれない。刊行されてたときに読んでたら違う感想を抱いていたかも。

 

【暗夜行路/志賀直哉

主人公に降りかかることがあまりに重すぎて泣いちゃうやつ。でもなぜか悲壮感が少ないので、なんとなく読めてしまう。途中でいろんな女性にコロコロ気を移すのも成就しない故に憎らしくないし。でも主人公みたいなやつが知り合いにいたら絶対心配になるので、たぶん幸せを掴もうと頑張っている姿というのはなかなかにキツイもんがあるんだろうなあと思う。さすがに自分の留守中に奥さんが寝取られたのを、まさかの本人から聞かされるのは辛すぎるが。世の中言わん方があることが良いというのはマジ。その場では言って楽になったのかもしれんが…。襲ったいとこというのが1番悪いけど、自分にも罪悪感があったから楽になりたいあまり謝ってしまったのかもしれない。あとは結局最後まで踏んだり蹴ったりだった主人公が生きてるのかどうかがめちゃ気になる。あれで終わってしまうのはあんまりなので…幸せになってくれ〜。

 

【A2Z/山田詠美

山田詠美氏の本ってこんなキュートで聡明な感じで書いてるのか〜!と良い意味で裏切られた。語り口が女友達。女友達の愚痴と恋愛話聞いてるときの楽しみだけ持ってきてくれるやつだと思った。これもまたやってることが浮気なので最悪なんですけど、主人公の夫も同じことをしているの不思議と腹は立たない。あれ、よく考えたら他人の浮気に腹は立たないかもしれない。まあいいや。何って物凄く素直な気持ちを軽めの文体で描いてるにも関わらず、バカっぽくならない絶妙なバランスがすごい。タイトルはしっかり回収されるんだけど、なぜAからZを頭文字にした単語が強調されているかはわからなかった。なんでですか?

 

【タイニーストーリーズ/山田詠美

超短編で、全然タイプの違う話がたくさん入ってて楽しめる。電信柱が主人公の話とかあるし。「にゃんにゃじじい」が1番好き、女子とおばあちゃんのバトルって感じで。出てきた女子とお兄さんのデートがどうなったか気になりすぎ。

 

【少年たちの終わらない夏/鷺沢萠

20を迎える直前の感傷なんか自分が感じたことがあっただろうか。19歳の少年達が出てくる短編集なんだけど、仲間内で生きる上でどう見られるかを気にする息苦しさとか、守られた立場であることの心地よさとか、20過ぎちゃったら確かにあんまないかもなという風景がこれでもかってくらい詰められていた。自分の実感としては20を過ぎた頃というよりも、社会人になる過程で出てくる社会的な立場とか、逆に高校までのクラスというまとまりから解放されたことばかりが頭にあったので、仲間内でバカをやるみたいなものはピンとこなかったかも。どっちかと言えば中学生から高校生になるときの気持ちというのがしっくりきたかもしれない。女の子に対する目線とかかなりシビアでその無邪気さが怖〜〜〜となってしまったが。普通にブスとか言いまくってるの怖すぎだろ!確かにそういう人いるけどさ!

 

【錆びる心/桐野夏生

ゾワゾワする短編しかなくて全てが良過ぎた。夫の束縛から逃れて家政婦として雇われた家で、平和な日々を過ごすけど家の主が抱えてる思いが歪んでってのが1番好きだな。ところで短編の感想書こうとすると上手くいかないのなんでだろ。

 

夜想曲集/カズオイシグロ

「私を離さないで」があまりにも面白く、人に勧めたところ絶賛されたので、いざ!と思って読んだ短編集。やっぱり面白い。カズオイシグロって至って真面目に話を書いているのかと思いきや、ユーモア交えて書くのが上手いことに驚き。盗んだトロフィー返すためにホテル内走り回って、見つかりそうになったら料理の中に隠すのヤバすぎる。でも「才能」をテーマにしているのは軸がぶれない。しかもその切り口がいろいろで、「才能を傷つけないように才能を使わないようにしている」という話なんか絶対自分には思いつかない。「あのとき別の得意分野を活かす選んでいたら…」という後悔が幻想かもしれないと思わざるを得ない。

 

【泳ぐのに安全でも適切でもありません/江國香織

ラノベみたいなタイトルで好き。これも短編集。中年女性が若い男の子とサマーブランケットでくるまる話とか、甘酸っぱい感じだけど他が案外そうでもない。タイトルの話とかヒモ飼ってるし。でもどこかに爽やかさがあるのが読みやすい理由なのかな。

 

がんばっていきまっしょい/敷村良子

アニメ映画やるから読んだ。ユーフォみたいな熱血系を想像していたら、違う…!違いすぎる。もっといじけた感じで、何も頑張れなくてどうしようもなく無気力で、人とも関わろうとしない高校生の自分と重なる話だった。閉塞感がリアルすぎ。いや、主人公は自分で決めた道を通すし部活を頑張るから偉い。それは自分とは全然違う。クールな語り口で続いていくから見落としそうになるんだけど、試合に負けたときの悔しさとか、まさかの形での失恋とか、全部引っくるめてちゃんとやってるので偉い。自身の高校時代があまりにオシマイだったため、偉いという雑な感想になってしまった。

 

夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

京都の景色が懐かし過ぎて泣きそうなやつだ。第1章とか、飲んで先斗町の周りを歩く楽しさ心地よさ、全部詰まり過ぎてて吐きそうだった。京大文化祭っぽいのも出てくる(行ったことない)けど、京大独特の大学っぽさとか、百万遍まわりの感じを勝手に思い出してとにかく懐かしさばかり出てきた。文体がコミカルでしれっとファンタジー要素も出てくるのが、ノスタルジックさに拍車をかけているのか。鯉が夜空からおりてくるとか、京都であってほしい出来事じゃないですか?(そうか?)

 

【草原の輝き/山田尚子

山田尚子氏が初めて書いた小説だとか。ガーデニングを通して、主人公が年上の優等生に心を開き、その逆もまたあり…というハートフルなお話。しっかり世界観とキャラクターが作られているんだろうなあ、ということが伝わる。キャラそれぞれの絵が読んでるときに浮かぶ。展開でウワーっと苦しくなるところはちゃんと回収されるので、ものすごく優しい世界だなあと思いながら安心して読み進められる。映像にしたらきっとめちゃくちゃきれいなんだろうなあ、アニメ化されたのを見てみたい。

 

【なんて遠い海/谷村志穂

静かできれいな世界を描くなあと思った。ここまで書いて思ったけど、作家によって読んだときの味が違うの不思議すぎる。なぜなんだ。そしてこれもまた短編集。余命わずかな指揮者にインタビューしたのがきっかけで、定期的に電話する仲になって惹かれていく。それが原因で婚約者と別れるが、指揮者が亡くなったことで誤解(?)が解けて結婚する…という話が1番好き。こう書くとめちゃくちゃシンプルなんだが、電話の言い訳なんていくらでもできたのにしないとか、どうやって誤解が解けたかとか作者からの説明ならいくらでもできるんだけど、そのへんをあえてしないというのが全体の静けさを作っているのかなあなどと思ったり。

 

 

結局よくわからん感想を長々と書いた。定期的にメモっていくと良いのかもしれない。読んでる本の内容けっこう偏ってたな。